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8/24 みちのく夕焼け兄弟編
Spitz The Great Jamboree '97
1997.8.24
岩手県小岩井農場特設会場

スピッツ
びしょぬれな夏
ふわわわわ〜。なんと雨。それもびしょぬれ。
スピッツが”開始の時刻も早めにして、盛り上がる頃に夕焼けが見れるようにしよう”
と敢行した'97年夏のイベント。なのにその最終日in小岩井農場編は4人が初めて体験する悪天候のライヴになってしまいました・・・
でもね、なんだかね、本当に忘れられない一夜になった気がするのです。
泣けちゃうくらい素敵なシーンがたくさんあったんだもん!



この日起こった出来事を、見て感じたことを全部そのまま書こうと思う。仕事的なレポートをしようと思ってたけど、今思えば自分も観客の一人になれて観ることのできた貴重なライヴだったので、これは極めて個人的な感想文。だから何の誇張もフォローもなく感じたままを書こうと思う。
スピッツで大雨、という誰よりも不釣合いなシチュエーションを迎えた夏も終わりの8月24日、小岩井農場特設会場でのコンサート。その時どうだったのか。その経過を辿ってみたいと思う。
残暑厳しい東京の街を後にして新幹線で北に3時間。到着した盛岡の暑さもさほど変わらないもので、夕方にさしかかったというのに空気は蒸し蒸しと不快指数が高かった。駅前では会場行き大型シャトルバスが待機していて、遠方からのお客さんも見込まれている様子。そこからタクシーに30分ぐらい乗っただろうか、途中、天気雨がパラつきながらも混み合う一本道をやっと抜けると、いつの間にか広がっていたのは「みちのく夕焼け兄弟」の名に相応しい、朴訥な自然に囲まれた緑の牧場。市街地を抜けたせいか空気も匂いも澄んでいて、視界の半分以上を占めるのが空というシチュエーションに圧倒されつつ、スピッツを観るには絶好のロケーションだなと心が弾んだ。
場内に足を踏み入れると整理入場中で、詰めかけたお客さんによる膨大な列が続々と最後尾を伸ばしていた。その間をすり抜けて歩くこと10分、バック・ステージに案内されると、リラックスしたひょうじょうのメンバー達がまだ私服のまま思い思いに開演前の時間を過ごしているのが伺えた。私は編集担当のTが三輪君とばっさり切った髪の毛について談笑するのとか、マサムネ君がご家族と対面する微笑ましい光景とか(どんな気分なんだろう)を見るともなく見ていた。それから客席に移動し、名物のそふとクリームを味わったりしてると(うまい)、雲行きが怪しくなってきて小雨が降ったりやんだり。それでも2万人のお客さんの一番後ろから特設ステージとその背景を望むと、地球というドームに包まれているような、守られてるような大らかな安心感が沸いてきた。

そして夕方5時15分。メンバーが唐突にステージにやってきた。ふらり登場はいつものこと。前のほうの歓声から気づいた人も多かったようで、歓喜の声はウェーブのように各ブロックをスライドしていくようだった。青かった部分がどんよりした雲に覆われて今にも泣き出しそうになってる空模様とは裏腹に、一発目から「チェリー」が流れ出すと場内は早くも一体化。最前のブロックから誰かが飛ばしたシャボン玉が空に吸い込まれていったり、♪君を待ってる〜のフレーズでひときわ大きな反響が上がったりする光景はとてもほのぼのしていて、嬉しくなった。それでも”どうもこんにちは、ようこそスピッツです”の挨拶から「タイムトラベラー」「ハチミツ」と進むうちに雨はついに本格的に降り始め、マサムネ君のMCも”今日は雨の中をこうやって皆さん聴きに来てくれてどうもありがとう”になっていた。
だけど”テツヤも髪を切って反省してるんで(笑)”とか長崎、つま恋と続いた'97年夏の野外ライヴ・シリーズも今日で最終公演を迎え、”末っ子が一番可愛く見えるということでね”といった喋りで場を沸かせるあたりに彼らしい気遣いが感じられた。しかしステージでは感電のかのうせいがあるため、各メンバーの頭上にはビニールハウスが組まれた状態。その下から大粒の雨越しに見る精一杯の声援を送ってるお客さんたちの姿は、4人の目にはどんな風に映ってるんだろう。
そんな中、スピッツが何とも不思議な神通力を見せたのが8曲目の「あじさい通り」だった。歌う前にマサムネ君はこう言っていたのだ。”じゃ、この雨が上がるのを祈るような「あじさい通り」っていうのを聴いて下さい・・・。”そして曲が始まる。いつものように優しいメロディ、優しい歌。すると、♪だからこの雨あがれ〜というマジナイが天に届いたかのようにこの歌の間、すっと雨足が弱まり、引いていった。私は驚いて雨を探した。やんでいた。やがて演奏が終わると、前のほうで”雨やんだよー”という誰かの声が飛んだ。偶然かもしれないけど、どれぐらいの確率でこんな自然界の素敵な演出(巡り合わせ?)って起こり得るんだろうと感激した。嘘のような本当の話。
次第に照明が映えてきたところを見ると、晴れてればそろそろ美しい夕暮れ時で、ライヴ的にもひとつのハイライトになってた頃なのに、このあと無情にも雨は先ほどよりも勢力を増し、コンサート終了まで遂に上がることはなかった。「プール」「君だけを」「空も飛べるはず」あたりは避難したくなるほどの容赦ない豪雨で、正直言って歌の世界に浸る場合じゃなかった。カッパを着てるのに顔もからだもびしょぬれで、辛い状況。
雨がザーッと降る。マサムネ君がルララと歌う。
雨がザーッと降る。マサムネ君がルララと歌う。
その繰り返し。でも私の周りにいたファンの皆は歌声に合わせて楽しそうに揺られている。その姿にじーんと来た。いっそヤケになってめちゃくちゃに踊るような音楽だったら楽なのに、そうじゃないのに頑張ってる。ステージも客席も。いつになくハリがあって、悪天候を念で跳ね返そうとするようなマサムネ君のヴォーカルは温かくも力強い。でもその姿からは無念ささえも伝わってくるようで、敏感なお客さんたちは1曲終わるごとに精一杯の拍手や歓声を送り続けた。そんな連帯感がライヴを盛り上げていたのは確かだろう。
フロント全員が雨の中に飛び出てきて場内を大いに沸かせた。「クリスピー」のあと、再びマサムネ君のMC。”大丈夫かい?いやぁ、水も滴るいい男いい女っ。♪激しい雨が俺を洗う〜(MODSの曲)(笑)。すごいでも今日はこんな大雨降ってんのに最後まで聴いてくれて非常に感激してます。ありがとう。こうなったら晴れるまで何回も来たいですよ!!(後ろを振り返って)崎ちゃんがビニールハウスで栽培されてる感じですよね(笑)””たぶんね、生まれ変わっても忘れない気がする。今日の日を励みにスピッツずっと続いて行くんで、仲良くして下さい、これからも。”
雨はどこまでも意地悪で、喋りさえかき消すような勢いで視界を遮断しようとするけど、その声と気持ちはじゅうぶんに届いてきた。そして「スカーレット」が始まってから、ふと思いついて会場内を少し歩き回ってみた。足元がぬかるんでて進みにくい。スニーカーの中までとっくに全滅だ。それでも時々顔をあげると、いろんな光景が見えた。最前列の全員がマサムネ君と一緒に大声で歌ってるブロックがあったり、一緒に口ずさんでる様子の警備員をはっけんしたり(なんか嬉しかった)、ブロックよりも更に後方(メンバーなんか見えてないぐらい遠い場所)の草の上で裸足になって派手に踊ってるグループがいたり。一方で出口に向かう人影が見受けられたり、ステージそっちのけでじっと雨に耐えてる女の子なんかがいたのも確か。いろんな光景が飛び込んでて、コンサートをこうせいするのはステージ側だけじゃないんだなってことを改めて感じた。
小雨になったと思うと強さを増す。思わせぶりな雨足に一喜一憂させられながらライヴはクライマックスに向かっていった。「スパイダー」でオレンジ色の照明がステージ一面を染め上げた時にはまた夕焼けへの未練がぶり返したけど、だんだんこれはこれで良かったかもしれないと思い始めた。東京では座席のある大きなホールで何度も観たことがあるけど、この日ほどスピッツの曲を一生懸命聴いたことは私はなかった。ぽよ〜んと聴くことが多かった。勿論それも正しい聴き方だと思う。でもこういうシチュエーションのおかげで歌の本当の強さを姿を感じられた気がした。”どうもありがとう。もう、すごい、今日は僕は気持ち良すぎて、小岩井の土になってしまいそうだ””昨日は羊と仲良く遊んで、昔は俺は羊だったのかな?なんて・・・「猫になりたい」”
ラストそんぐはそんな言葉から始まって、ドラマティックだった今夜のステージを特別な余韻で飾った。
そしてアンコール。熱烈な歓声に誘われて戻ってきたマサムネ君は開口一番こう言った。”どうもありがとう!!ホントにすっげえ嬉しいです。もう・・、今日来たみんなが幸せになれないようだったら俺は怒るっ”感激でいっぱいの彼がはっした心からの言葉に私は感動した。次にメンバー全員から一言ずつ挨拶。
”デビュー前にこんな雨の中で1回だけライヴ演ったことあるんだけど、その気持ちを取り戻してくれたような気がします、ありがとう”(田村)
”くれぐれも風邪ひかないように”(三輪)
”さっきから僕のドラムセットにいろんな虫が止まってるんですけど、虫と一緒に頑張りますっ”(崎山)
”イエ〜イ(ハートマーク)皆風邪ひくなよっ”(明石key)
そしてマサムネ君が”それじゃ聴いて下さい”と曲に行こうとすると三輪君が”待て待て待てぃ!!ヴォーカル草野マサムネ!!”と盛り立てる。
”忘れてた、ハハッ。祈ってるから、みんなの、とりあえず明日の幸せを”。続けて盛大なシンバルの合図から飛び出したのは「バニーガール」。夕焼け兄弟シリーズを締めくくったのはとても陽気な奴だった。途中、最悪だ台無しだと何度も恨めしく空を見上げた。でもこの日のコンサートは今すぐというよりも逆に時が経つにつれて、或るワンシーンが鮮明になっていったり全体の印象が深まっていったりする、そんな種類の思い出になるかもしれないと気づいた。
'97年、過ぎ行く夏の終わりにこんな時間をスピッツと共有できたことを忘れないと思う。そして次に思い出す時は、また今とは別の感慨で振り返れるんじゃないかと思っている。

[曲目]
1.チェリー
2.タイムトラベラー
3.ハチミツ
4.青い車
5.五千光年の夢
6.海とピンク
7.夏の魔物
8.あじさい通り
9.流れ星
10.胸に咲いた黄色い花
11.プール
12.君だけを
13.空も飛べるはず
14.ハニーハニー
15.涙がキラリ☆
16.クリスピー
17.スカーレット
18.僕の天使マリ
19.スパイダー
20.トンガリ’95
21.猫になりたい

EN1.バニーガール

B-PASS'97より

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