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5/8 NHKホール
SPITZ JAMBOREE TOUR LIMITED 96「カゲロウの集い」
1996.5.8
NHKホール

ずっと僕らのままで。
この5月に東京、大阪、名古屋の3ヵ所のみで行われたスペシャル・ツアー”カゲロウの集い”。
全編にストリングスとホーンセクションを加えた、この貴重なコンサートを体験するために、5月8日NHKホールへと向かった。
「チェリー」の大ヒットで、改めてその実力を見せつけてくれたスピッツの余裕の裏技か。


突然ポーンと野原に放り出されたような不思議な気分になった。
 朝からぐずぐずと降っていた雨が、夕方になってやんわりと上がり始めた。さっきまでNHKホールへの坂を上って行く人々の手元で、すっかり邪魔モノになってブラブラ揺れていた傘も、それぞれの座席の背にかけられたり、下に置かれたりして、ちんまりと開演を待っている。

 耳をつんざく歓声。ホーンとストリングスのふわんと胸に迫るイントロから始まるオープニング曲は、なんと「恋は夕暮れ」だった。ステージには、数えてみれば、1,2,3・・・10人のストリングスに、6人のホーンセクション。パーカッションが1人と、キーボードが1人。指揮者をつとめる笹路さん(スピッツの共同プロデューサー)に、そしてスピッツのメンバー4人と、総勢23人もの大音楽隊が、軽やかに甘やかなメロディーを奏でている。
ステージのバックには、ぽってりとした深いだいだい色の夕暮れ空が広がっている。突然、不思議な気分になった。さっきここへ来る道々、歩きながら見上げていた空の続きを見ているような、ずっと空を見上げながら歩いていたら、突然ポーンと野原に放り出されたような。
マサムネくんの声が風のように心地良い。
「魔女旅に出る」では、青く晴れ渡った空に、スーッと虹がかかった。そこからは夏の、どこか浮いた気分と、くすぐったいような青い草の匂いが胸いっぱいに満ちてきた。
「ドルフィン・ラヴ」での、オーケストラに楽しげにからんでいく崎山くんのドラミング。ホーンとパーカッションが軽やかに盛り上げる「夏が終わる」。
その中で、滑らかに泳ぐように、本当に気持ち良さそうにギターを奏でる三輪くん。ときにはドラムが、ときにはギターがリードしながら、大きな編成のオーケストラとのコラボレーションを、彼らがめいっぱい楽しんでいるのが伝わってくる。
青空の下の大音楽隊。そんな言葉が浮かんできてワクワクした。
「えー、すごく春まっ盛りという感じで、今日はちょっと雨が降ってましたけど。まあ、ウルフルズのアホアホパワーに対抗してスピッツのハレハレパワーで(笑)」
久しぶりに緊張してます、というマサムネくんのMCもそんな感じで始まった。

「最近気になってる名前がサヨコとチカ。かわいい名前だよね」

「春になると動物が生まれたり・・(会場がザワザワして笑い声)またそういう話?とか言われてるな(笑)。友達のうちに赤ちゃんが生まれてね、名前がマミちゃんという名前で。名前をつける作業というのは大変だなぁと思ってね。僕らの曲にも『ミーコとギター』とか、少女の・・・じゃない、魔女・・じゃない、えーと、天使!
『僕の天使マリ』とかいろいろあるんですけど。今度ね、また新しいアルバムに向けて、1コ女の子名前の曲を入れようと思ってて。最近気になってるのが、サヨコって名前。
かわいいよね。あとチカとかね。なんてそんな話ばっかりしてても・・今日は久しぶりに会えたんで、心が・・だんだん足がなくなってきちゃって」


 緊張で、少々意味不明になったMCのあとに聴かせてくれた「僕の天使マリ」の、心がすくような愉快さ。陽気なフィドルのそろが、夏の太陽を思わせる。会場がマサムネくんに合わせて、♪もうどこにもいかないで〜と声を合わせる。真っ赤な空に稲妻が走る演出が鮮烈だった「迷子の兵隊」。曲が終わると同時に青空が広がりポッカリと雲が浮かんだ。
 そして、今回特にストリングスならではの魅力をはっきし、印象的に心に刻まれたのが「うめぼし」と「田舎の生活」。チェロ、バイオリン、パーカッション、ギターというアコースティックの少人数で演奏されたこれらの曲が、大編成のオーケストラで演奏された楽曲たちと、いい意味で対照的にお互いを引き立て合った。
ファースト・アルバム『スピッツ』に収録されている「うめぼし」をコンサートで聴くなんて、会場のファンはほとんどの人が初体験だったのではないだろうか。淡いベールをかけるような、ストリングスの優しく甘いイントロ。バイオリンのどこか感傷的な響きが、メロディーの美しさをいっそう魅惑的に盛り上げる。♪うめぼし食べたい僕は、君に会いたい〜と歌うマサムネくんの声が、ほんのりトボけてかわいらしくて切ない。

「久しぶりに歌うと、なんかこう学生時代の歌作りで、一日過ごした日々が甦ってくるようです」
と、マサムネくん。
この「うめぼし」も次の「田舎の生活」も、歌の世界が鮮やかに浮かび上がってくるようだった。緑と土の匂い。風と小川のささやき。そして、胸がつまるような彼女のきらめく笑顔。

「魔女旅に出る」では、柔らかな音のうねりに空気が動いた気がした。

 再びオーケストラが入って聴かせてくれた「チェリー」は、コーラスの部分をストリングスが歌っていたり、ひと味違う印象で、今回の企画ならではの楽しさ。「ラズベリー」では、田村くんが独特の”愛すべき不思議な動き”で、ステージサイドに走りながら客席にアピールする。「海ねこ」でのマサムネくんの、なんとも気持ち良さそうなのびやかな声。「裸のままで」「黒い翼」と、最後のほうはドラムとベースとギターが、オーケストラをぐいぐい引っぱって、操って、イキイキと跳ねてる!ミラーボールがくるくる回って、私たちも心が踊った。
”まだあの曲もやってない、この曲も”と贅沢な声が聞こえる中で、本編が終わってしまった。確かにもっと聴きたかった。

 アンコールの「魔女旅に出る」(東京・NHKホールのみ)が、また格別に良かった。
崎山くんが、ドラムのスティックで「ワンツースリー」とカウントを刻む。それに合わせてストリングスが入ったとたん、柔らかな音のうねりに空気が大きく動いて、髪がふわりとなびいたような気がした。胸がドキドキと鳴っているのがわかった。会場のみんなで一緒に風に乗ったような気がした。

産卵して数時間で死ぬカゲロウと、彼らが伝えたいこと。

今回のツアー・タイトルの”カゲロウの集い”とは、陽炎よりも昆虫のかげろうのことだろうか。産卵して数時間で死んでしまう短命の、水辺を飛んでいる小さな小さなか細い虫。今回のツアーが、たった3本の短いものであり、もしかしたら最後かもしれない全編オーケストラを加えたイベント性の高い内容であったこと。また、ひとつの命はささやかでも、繰り返していく大きな生命の流れの神秘的な強さ。そして、私たちにとっての数時間が、その1匹の虫にとっては精一杯生きて生命をつないでいく一生であるということ。考えればいろんなイメージが浮かんでくる、そのタイトルにも、今回のスピッツがやりたかったこと。これからもずっと言い続けていきたいことが集約されているような気がした。
 前回のツアー”TONGARI”が、まさにスピッツの王道であるとすれば、今回のツアーは、スピッツをより深く知り愛するための裏道、横道・・うーん、うまく言えないけれど、子供が石蹴りしてるような路地、花がさいている散歩道・・だったような気がする。今回のツアーに触れて「あれ、いつものツアーなら必ず聴ける曲がなかったな」と思った人も、もしかしたら「初めて聴く曲だな」という人もいたかもしれない。かつての全てのアルバムからピックアップしてきた今回の曲は、どれもストリングスのアレンジが生きている曲が多く、今までのコンサートでは必然的にできなかった曲ばかりだ。それが聴けたことが何よりも新鮮だったし、”昔から僕らは同じようにいい曲を作ってるし、どの曲も同じように愛してる”という彼らの意思ひょうめいみたいなものが感じられた。
 そして、このオーケストラを加えたコンサートを見て、改めてスピッツのベーシックな魅力を再確認した気がした。ストリングスが持つ叙情的な音色と相まって、波打つように柔らかに静かに心に滑り込んでくる、メロディーの美しさ。その独特の詞の世界が、サウンドの中に浮かび上がってくることによって、言葉よりももっとイメージとして、リアルに五感に伝わってきた。それは、その歌の中に流れている空気の色だったり、風の匂いだったり、言葉にできない悲しみや喜びだったり。その詞の向こうに見える心の景色を見せてくれた。

 また「大きな編成でやると、歌手になったんだって感じがするよね」という感想を、マサムネくんがステージで漏らしていたけれど。オーケストラの編成でも、アコースティックのシーンでも、繊細だが強い響きを放つその声の存在感。
 ゆるやかで大きな流れの中に身を任せて、ハーモニーを楽しんだスピッツのメンバーたち。何度コンサートをやっても緊張してしまう不器用さ。「ジャンボ!」とあいさつした三輪くんに、「あ、それ俺が言おうとしたのに」と悔しがる崎山くん。マイペースで楽しそうにベースを弾いてる田村くんも。そのあたたかさが、しみじみと伝わってくるスペシャルなライブだった。そして、このコンサートを充分にたんのうしたからこそ、余計にスピッツ4人のバンドサウンドが聴きたくてウズウズしてきたのは、私たちだけではないはずだ。彼ら自身もまた、そこに新たなスピッツの行方を示唆する卵を見つけたのではないだろうか。

[曲目]
1.恋は夕暮れ
2.魔女旅に出る
〜MC〜
3.ドルフィン・ラヴ
4.ルナルナ
5.夏が終わる
〜MC〜
6.僕の天使マリ
7.ベビーフェイス
8.迷子の兵隊
9.Y
〜MC〜
10.うめぼし
11.田舎の生活
〜MC〜
12.チェリー
13.ラズベリー
14.海ねこ
15.裸のままで
16.黒い翼
〜アンコール〜
1.空も飛べるはず
2.魔女旅に出る

News Makers'96より

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